
SF映画の金字塔であり名作としても有名な「2001年宇宙の旅」ですが、内容が難解だとよく言われます。
私も最初は訳が解らなかったんですが、それもそのはず!この作品が公開される時に、脚本のA.クラークはこう言い残しました。
「この作品が意味するところは神である。もしもこの映画が一度見ただけで理解されたのならわれわれの意図は失敗したことになる。」
IQが200を超えるとも言われるS.キューブリックとA.クラークの天才コンビの作品ですから、凡人が簡単に理解できる訳がありません(笑)
そこで、小説やら文献やらを読み漁ってたどり着いた考察を感想も含めてみなさまにお裾分けしようと思います。
[予告版動画はこちら]
作品の根幹は旧約聖書の創世記!
1. 映画冒頭の背景を読み解く
話は、生命と人類の誕生から始まります。
生命の種が進化した猿人達の前に突然モノリスが現れ、モノリスに触れた猿人は知恵を得て動物の骨を道具として利用する事に目覚めます。
ここは13章の知恵の実を食べた人間が知恵を得た事で羞恥心や善悪を知ってしまう文節を表現していて、仲間を殺してしまうシーンは、14章の人類初めての殺人事件の加害者と被害者である「カインとアベル」を表わしています。
最初の役目を果たしたモノリスは次の場(月)へと姿を消すのですが、このモノリスは「知恵の実」を意味していて、作中で「進化」を描くキーとなっています。
進化を遂げた人間は、宇宙に活動を広げるまでに科学を進歩させ月に移住する時代となります。
冒頭で登場する宇宙船と舞台になるディスカバリー号は、進化の象徴として猿人が空に投げた骨の形がモチーフになっています。
2. HAL9000型とはどんな存在?
ある日、月面の地下から400万年前の物とされるモノリスが発見され、掘り起こされたモノリスは太陽光を浴びたことで、木星に向け強力な信号を送っているのが判明します。
ところが、極めて高い科学技術から出来ているモノリスを解析できていない人類は、木星に高度な知的生命体の存在を確信し、木星探索を極秘裏で計画します。
18か月後、最新鋭人工知能「HAL9000型」を搭載したディスカバリー号で木星探索に向かう5人のクルー達。しかし、クルー達に探索の目的は告げられておらず、HALだけがその事を知らされている上に極秘である事を義務付けられています。
光線を浴びたHALは、船長に探索の疑問を投げかけ「誤作動」を演じます。
ここでは人工知能が人間に近い思考へ進化を遂げている象徴として、赤いカメラを血の通う人間の目として描いています。
3. HALやスターチャイルドと創世記の関係
不審に思った船長とクルーは音声の遮断されたポッドの中でHAL思考機能停止を画策するものの、HALは読唇術でこの画策を見破ってしまいます。
計画を知ったHALは人工冬眠の生命時装置を遮断し、2人のクルーも船外に追い出す事で人間の殺害を図ったのです。
この場面は人間が生命の木に近づく前に、神の使いに邪魔される記述を表現しています。
唯一生き残った船長はHALの思考機能停止(殺害)を実行し、そこに映し出されたモニターで初めて探査の真の目的とモノリスの詳細を知ります。
木星にたどり着くとモノリスが現れ、不思議な光(スターゲイト)を通り船長は新たな進化を遂げたスターチャイルドとなり、年老いた自分自身が独りで食事を取る白い部屋に居合わせます。このシーンは、13章の知恵の実と生命の実を併せ持つ事で神と同等になる記述を表現しています。
食事中の彼がテーブルのグラスを落として割ってしまい、更に年老いた後にベッドで死を迎える様をスターチャイルド(神)となった船長本人が見ています。そして、母体の中の赤ん坊のシーンでエンディングとなります。
死にゆく彼の姿と割れたグラスは、人間としての生命と全ての姿形には期限と終焉があることを、最後の赤ん坊はそんな死に向かう人間も生命の誕生で命が受け継がれていることを表現しています。
実は、アニメ「エヴァンゲリオン」もストーリーの根幹がこの作品と酷似しています。恐らくこの作品に多大な影響を受けているか、オマージュ的な意味合いを持っているのではないでしょうか?
作品をもっと楽しむためのエピソード
人工知能のネーミング協力をIBMに依頼したところ、ストーリーの内容を理由に断られたのでIBMを一字ずらしたHALと名づけられました。
美術監督は当初、手塚治虫氏に依頼したのですが、多忙を極めた手塚氏はこの依頼を断ったそうです。
キューブリックがこの作品を制作するきっかけは、大映の「宇宙人東京に現わる」に触発されたからだそうです。
この作品がきっかけで当時のケネディ政権はキューブリックをアポロ計画の工作活動に利用したと言われています。突然死の死因にも疑問点が多い事が頷けます。
徹底して科学的根拠を突き詰め、天才的な発想で撮影されたこの作品は名作と言われるに相応しいと思います。
難解な本作も、私の考察が鑑賞のヒントになれば幸いです。